ちょっとしたヒント
- ゆっくり進んで、ひとつずつ本当に気づいて。
- 心配が大きくなったら氷をひとつ握って。
- 落ち着く前に、もう一度くりかえして。
不安は、ほとんどいつも「今」にはいません。数分先か、数年先のところに住んでいて、まだ起きてもいないことのリハーサルをしています。うまくいかないかもしれない会議。返ってこない返信。明日のいちばん悪い筋書きを、何度もくりかえし上演する。そのあいだ体のほうは、まったく安全な部屋の椅子に座ったまま、ここにはない危険に身構えているのです。
グラウンディングは、その隙間を閉じる動きです。想像の中の未来から注意を引きはがし、いま現実にある部屋へそっと戻してあげる。足の下の床。冷蔵庫のうなり。壁の色。5-4-3-2-1の方法は、これのいちばん広く教えられているかたちで、セラピストがこれほどよく手にする理由があります。ほとんど考えられないときでも思い出せるほどシンプルだから。そして、目を閉じて大げさに深呼吸する、なんてできない場所でも使えるから。待合室。混んだ電車。話し出さなければならない直前の一分間。
全体を一息で言うと、こうです。見えるものを5つ、触れるものを4つ、聞こえるものを3つ、においを2つ、味を1つ。それだけ。感覚をひとつずつ下りながら数えていくと、いちばん下にたどり着くころには、頭の中の渦のいくらかがたいてい抜けています。
グラウンディングとは、実際のところ何か
この言葉はゆるく使われがちなので、はっきりさせておく価値があります。グラウンディングとは、心がどこかへさらわれてしまったときに、あなたを「今ここ」につなぎとめてくれるもの、すべてのことです。さらわれた先は、未来(心配)かもしれないし、過去(記憶やフラッシュバック)かもしれないし、ぼんやりとした「どこでもない場所」かもしれません。そこでは、自分の体から切り離されたように感じて、部屋が少し現実味を失います。どれも同じことのちがう姿です。注意が「今」から離れてしまっている。そして「今」だけが、あなたが本当に安全でいられる唯一の場所なのです。
だからこそグラウンディングは、感覚にこれほど強く頼ります。考えは時間を旅できます。でも感覚にはできません。あなたの目は、いま目の前にあるものしか報告しません。あなたの肌は、この瞬間に触れているものしか感じません。だから、わざと注意を視覚・触覚・聴覚・嗅覚・味覚を通してめぐらせると、あなたは「今」から離れることが物理的にできない部分を使っていることになります。それが、あなたの残りの部分も一緒に引き戻してくれるのです。
いかりを下ろすところを思い浮かべてみてください。嵐はやみません。水はまだ荒れています。でも、漂うのは止まります。それだけで、次に何ができるかが、まるごと変わるのです。
なぜ感覚に下りると効くのか
何かに怖がらされたとき、あるいは脳がただ「これは怖い」と決めただけのとき(内側からは見分けがつきません)、速くて古い警報システムが立ち上がります。心拍が上がる。呼吸が浅くなる。考えが、脅威と逃げることだけに狭まる。やっかいなのは、このシステムが、本物の緊急事態と心配な考えとを、いつも見分けられるわけではないこと。どちらも、部屋にいる熊のように扱ってしまうのです。
感覚は、その警報に証拠で言い返す方法です。目の前にある本物のものを5つ、わざと気づくことで、あなたは脳に、なんでもない素朴な情報を絶えず流し込みます。部屋は問題ない。何も追ってきていない。光はふつう。椅子はしっかりしている。臨床家はグラウンディングを、ストレス反応をショートさせて、あなたを「今」に戻す方法だと言います。たいていの場合、実際の危険の度合いは、体が信じているよりずっと低いのです。Cleveland Clinicははっきりこう言います。不安なとき、人は自分の体から少し切り離されて、心配の中へ漂い出てしまいがちで、グラウンディングはつなぎ直す方法なのだ、と。
もうひとつ、起きていることがあります。注意は、ほぼ一本道です。袖の手ざわりを細かく確かめながら、同時に来週の火曜について渦を巻く、というのは本当にむずかしい。数えることが、心に小さくて具体的な仕事を与えます。その仕事が、反芻を押しのけてくれる。力ずくではなく、心配が座りたがっていた席に、そっと先に座ることで。
名前をつけることも助けになります。感情の研究には、自分の経験に言葉を当てる(「あれは緑のジャケットだ」、あるいは「これは恐れだ」とさえ)と、その熱が少し抜ける、というしっかりした証拠があります。見えるもの、聞こえるものにラベルをつけると、あなたは感情の「中」にいる状態から、周りを「観察する」側へと移ります。その小さな一歩下がりが、最初の安らぎが生まれる場所であることが多いのです。
やり方
静けさも、プライバシーも、道具もいりません。列に並んだままでもできます。もし先に少し時間があれば、ゆっくりした一息を、長くあわてない吐く息を一回しておくと、体に助走をつけられます。University of Rochester Medical Centerは、まさにこの理由で呼吸から始めることをすすめています。そのあと感覚を下りていきます。できれば声に出して、できなければ頭の中で。
- 見えるもの5つ。 まわりを見て、5つ名づけます。ちらっと見るのではなく。ひとつずつ、本当に止まること。窓の汚れ。ノートのほつれた角。誰かのジャケットの、まさにその緑の色合い。速さより、具体さが大事です。
- 触れる・感じるもの4つ。 足を床に押しつける。背中に当たる椅子、ジーンズの縫い目、テーブルの天板のひんやり、手の中のスマホの重み。できれば手をのばして、何かに触れてみる。手ざわりはいい。温度はもっといい。
- 聞こえるもの3つ。 音をひとつずつ分けていきます。外の交通。時計。廊下の向こうの声。静かな部屋での、自分の耳のかすかな鳴りも数に入ります。ただ聞こえているのではなく、わざと聞くこと。
- においを2つ。 コーヒー、せっけん、外の空気、ヒーターのほこりっぽいにおい。いまいる場所でにおいをつかめなければ、好きなにおいを2つ名づけるか、ひとつのほうへ動きましょう。袖、ハンドクリーム、柑橘の皮をかいでみて。
- 味を1つ。 水を一口、ガム、お昼の残りの味、あるいはただ自分の口の中。ひとつで十分です。
これでひとまわり。1〜2分ほどです。最後までいってもまだ張りつめているなら、もう一度、もっとゆっくりやってみましょう。一回目は、たいてい頭から注意を下ろすだけのことが多い。落ち着きが訪れるのは、たいてい二回目です。
よくある間違い
これを試して何も感じなかったなら、次のどれかに当たっているかもしれません。どれも、この方法があなたに効かない、という意味ではありません。
- 速すぎる。 これが大きな一つ。不安は何もかもを急ぎに感じさせるので、人はリストを駆け抜けて、なぜ効かなかったのだろうと首をかしげます。ここでは速さが敵です。じっと留まることが肝心。
- 気づかずに名づける。 心が回りつづけたまま「壁、床、ランプ、ドア、窓」とまくし立てるのはグラウンディングではありません。ただのチェックリストです。本当に壁を「見る」こと。その色、その傷、光の当たり方。
- テストのように扱う。 点数はありません。落ち着くまでに見えるものを3つしか見つけられなくても、あなたは成功しています。においが思いつかなければ飛ばしましょう。数字は目安であって、ハードルではありません。
- 感情を消してくれると期待する。 消えませんし、それは失敗ではありません。グラウンディングは音量を一段か二段下げてくれる。その一段か二段が、次の一歩を踏み出すのにちょうど十分なことが、よくあるのです。
自分のものにする
数字は神聖なものではありません。脳が止まりたがるときに、あなたを動かしつづけるための足場です。
ある感覚が使えないとき
まわりににおいがない? 味へ飛ばすか、置きかえましょう。動いて何かに触れられない? あなたの体がすでに世界と触れ合っている点に気づきましょう。床、座面、服。この方法はしなります。大事なのは「今」との感覚的なつながりであって、完璧なチェックリストではありません。
短い版を試す
つらい場面で5ステップが多すぎると感じるなら、Cleveland Clinicは削ぎ落とした親戚版、3-3-3法も教えています。見えるもの3つ、聞こえるもの3つを名づけて、体の3つの部分を動かす。指をくねらせる。肩を回す。足をとんとん。ステップは少なく、考え方は同じ。5まで数えるのさえ大変なときのために、この短い版をポケットに入れておきましょう。
強い刺激に手をのばす
不安が大きいとき、かすかな刺激はかき消されてしまいます。ときには、もっと強い信号が必要です。氷を握る。冷たい水に手を当てる。すっぱいものをかじる。外の冷たい空気や暖かい空気の中へ出る。鮮やかで無視しづらい刺激は、やさしく気づくことが届かないとき、注意が下りる楽な場所を与えてくれます。
呼吸と組み合わせる
グラウンディングとゆっくりした呼吸は、いい相棒どうしです。各ステップのあいだに長い吐く息を一回はさんでもいいし、注意が部屋へ戻ってくるにつれて、呼吸がひとりでに落ち着くにまかせてもいい。落ち着くものは何でも使い、合わないものは何でも飛ばしましょう。
必要になる前に練習しておく
ここが、人が飛ばしてしまう部分です。読んだだけの方法は、本当の危機のさなか、考えが狭まって手がふるえているときには、なかなか見つかりません。実際にくりかえし練習した方法は、ひとりでにやってきてくれます。
だから、落ち着いているときにやってみましょう。1日に一回、一週間。やかんを待ちながら。赤信号で停まっているあいだ。歯をみがきながら。すでに大丈夫なときに自分をグラウンディングするのは、なんだか間が抜けて感じますが、それこそが狙いです。あなたは、あとで暗闇の中で、説明を読めるほど頭がはたらかないときに、心がたどれる道を敷いているのです。目標は、5-4-3-2-1を、調べなくてもいい電話番号のように、体が半分覚えているものにすること。
効くとき、効かないとき
グラウンディングがいちばん力を発揮するのは、その場の鋭いとがった高まりです。パニック発作の最初の波。押し寄せる圧倒。つらいことの前に襲ってくる不安。持ち運べて目に見えないので、立ち去ることができない、まさにそういう場面で使えます。多くの人が最初の一手として持っています。まずグラウンディングして一段下り、それから次に何をするか決める、というふうに。
いくつか正直な限界もあります。グラウンディングは感情を鎮めます。心配のもとを消すわけではありませんし、そうするためのものでもありません。波のための道具であって、海そのものの治療ではないのです。一部の人、とくにある種のトラウマのあとには、注意を内側や呼吸へ向けることが、苦しみを減らすどころか、かえってかき立てることがあります。もしそれがあなたなら、それはあなたの落ち度ではありません。かわりに、外向きの感覚に強く寄りかかりましょう。体の内側で起きていることではなく、視覚、音、まわりの確かなものの手ざわりに。そして、その練習をあなたに合わせて整えてくれる専門家と取り組むことを考えてみてください。
もし不安がもう波ではなく、たいていの日に満ちている潮になっていて、睡眠や仕事や、大切な人たちのじゃまをしているなら、あるいはただ機能するためだけに、たえずグラウンディングしている自分に気づくなら、それは医師やセラピストに持っていく価値があります。一分間の方法以上のものが必要なのは、やり方をまちがえた印ではありません。一分間の方法では与えきれない、もっと大きな支えに、あなたが値する印です。それに手をのばすことも、それ自体がひとつのグラウンディングです。確かなものの上に立つことなのですから。
出典
- University of Rochester Medical Center, 5-4-3-2-1 Coping Technique for Anxiety
- Cleveland Clinic, Grounding Techniques To Help Calm Anxiety
- Healthline, The 5-4-3-2-1 Grounding Technique for Anxiety